企業の労働環境が変化し、年功序列や終身雇用など従来の制度も変化しつつある今、大手企業でも早期退職者を募ることが増えてきました。

また、年代を問わず入社してからすぐに離職してしまう早期退職(早期離職)も増加しており、転職時にどのように理由を伝えるかが重要になっています。

今回は、早期退職の理由について深掘りします。早期退職の定義、面接時に聞かれること、早期退職は不利になるのかなど幅広くお伝えしましょう。

この記事の監修:勝田健氏
スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績あり。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。

記事の目次

早期退職とは

早期退職といっても解釈によって、以下の2つの意味にわかれてきます。

  • 定年前に退職する早期退職
  • 入社後にすぐ離職してしまう早期退職

まずは、早期退職とは何か、この2つの違いを解説しましょう。

定年前に退職する「早期退職」

定年を迎える前に退職を志望する「早期退職」は、希望退職とも呼ばれています。

40代会社員を対象としたアンケートによると、早期退職制度を導入している企業に勤める人のうち76%の人が早期退職制度の対象年齢を「50歳以上60歳未満」と回答しています。

また、東京商工リサーチの調査によると、2008年のリーマンショック時には200社近い企業が早期退職者を募集しましたが、2012年以降は下降傾向が続いていました。しかし、2020年のコロナ禍で希望・早期退職者募集社数と人数は急増します。最新のデータでは、2年連続で80社以上が早期退職者を募集し、中には1,000人以上の退職者を募る企業もありました。

退職後、起業など新たな道へと進む人は、希望・早期退職で割増退職金を得ることで生活に余裕が生まれ、新規事業への投資やステップアップに繋げられるでしょう。しかし、勢いで退職してしまい「給与が下がっても働き続けていた方がよかった」なんてことにもなりかねません。老後のライフプランを検討してから判断するのがおすすめです。

入社後すぐに退職する「早期退職(離職)」

もうひとつの早期退職は、入社してから数年で退職してしまう「早期離職」(以下、早期退職(離職))です。年齢関係なく、さまざまな理由で退職・離職することを指します。

厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(令和2年度)では、就職後3年以内に離職する人の割合は約4割にのぼります。

2021年新入社員の意識調査(マイナビ転職)」によると、定年までこの会社で働きたいと回答したのは全体の16.6%で、3年以内に退職を予定している人は28.3%でした。新入社員の約3割が入社した時点で、早期退職(離職)を検討しているようです。

引用:マイナビ転職『2021年新入社員の意識調査』 /【図1】今の会社であと何年ぐらい働くと思うか

また女性の場合、結婚・出産を期にライフステージが変わり、離職を余儀なくされることもあります。労働者人口が年々減少していることから、昨今では早期退職(離職)を防ぐための福利厚生や働き方の多様化の動きも広がっています。

※ この記事では、2つの早期退職をわかりやすく区別するため、「早期退職」と「早期退職(離職)」と記載します

入社後すぐの早期退職(離職)の理由5選

入社後すぐの早期退職(離職)の理由5選

ここからは、早期退職(離職)の理由についてお伝えします。社会人経験が少ない20代前半の人と、ある程度経験を重ねた30〜40代ではその理由も異なります。年齢の傾向と合わせて紹介しましょう。

パワハラなど職場の人間関係が悪い

日本労働組合が行った職場の人間関係に関するアンケートによると、全体の58.5%が「人間関係を理由に退職・転職を検討したことがある」と回答しています。職種や年齢による原因はなく、早期退職(離職)を検討していることがわかります。

引用:職場の人間関係に関するアンケート /【年代別比率】Q2職場の人間関係を理由に退職・転職を考えたことがありますか?

長時間労働への不満

人間関係と同じく、労働環境も入社してみないと把握できません。入社してすぐは落ち着いて仕事ができていても、数ヶ月後には終電まで働かなくてはいけない状況もあり得ます。思っていた以上の残業の多さに、転職・離職を考える人も多いようです。

また、コロナ禍で在宅ワーク率が増加しました。出勤時間が少なくなった一方で、オンオフの切り替えがうまくいかず、長時間労働になった人もいます。「オフィスに出社したい」と早期退職(離職)を考える人も少なからずいるようです。

仕事内容が合わなかった

社会人経験が浅い場合、仕事内容のミスマッチから早期退職(離職)してしまうことがあります。

入社1年目の300人を対象とした「入社後状況に関する調査(2021年)」によると、新入社員の6割が仕事内容にギャップを感じていると回答しています。

引用:入社後状況に関する調査(キャリアチケット調査)

また、同アンケートの「入社前にもっと知りたかったことは?」の問いには、33.7%の人が実際の仕事内容に関する情報と回答しています。採用される側だけでなく、企業努力も必要な項目だと言えるでしょう。

求人内容と現実が違った

入社する前に聞いていた求人内容と、実際の仕事内容が違うケースも少なくありません。

厚生労働省の「ハローワークの求人票と実際が異なる旨の申出等」には、令和2年度にも4,000件以上の申し出が出ています。

 平成28年度平成29年度平成30年度令和元年度令和2年度
申出等の件数9,299件8,507件6,811件5,778件4,211件
(参考)新規求人件数6,161,398件6,468,438件6,600,951件6,282,475件5,029,222件
引用:ハローワークの求人票と実際が異なる旨の申出等

自分に合わない労働環境で無理をしながら働いて、心と身体に支障が出てしまっては大変です。求人内容や働き方に違和感があれば、早めにハローワークの担当者へ相談しましょう。

給与が低かった

予定より昇給ペースが遅く、早期退職(離職)を検討する人もいるでしょう。

また月給に大きな差がなかったとしても、ボーナスが少なく年収が下がるケースも考えられます。

「やりたいこと」と「給与」のバランスは大切です。月給と年収でそれぞれ見込める給与を計算し、入社後のミスマッチを防ぎましょう。

入社後すぐの早期退職(離職)の理由を面接で聞かれる3つの理由

早期退職(離職)した後、再就職をする人は、面接で「退職理由」を聞かれるでしょう。企業側は退職理由を聞いて何を判断しているのかご紹介します。

仕事への向き合い方を知りたいから

企業が面接で確認したいのは、「仕事」をするモチベーションがあるのかどうかです。「仕事がつまらないから辞めた人(自己都合)」と「仕事は好きだけど辞めざるを得なかった人(会社都合)」では、同じ早期退職(離職)でも状況が異なります。

面接では、どんな状況で早期退職したのかを把握した上で、その人に働く意志があるのか確かめます。早期退職(離職)は、職務経歴書や履歴書ではどうしても目立ってしまう部分です。面接では「退職理由」を明確に伝え、仕事へ向き合う意欲があることを示しましょう。

またすぐ辞めてしまう人ではないかどうか確認するから

企業は多額な「採用コスト」をかけて、採用活動を行っています。求人サイトへの掲載料やエージェントへの報酬だけでなく、社内で稼働してもらうための人件費もかかります。早期退職(離職)されてしまうと、これまでの採用コストが無駄になってしまうため、企業としても面接でしっかりジャッジしたい部分でしょう。

リクルートが発行する「採用白書2020」によると、1人を採用するために100万円近くの採用コストがかかっています。

新卒採用93.6万円
中途採用103.3万円
参考:2019年度新卒採用および中途採用1人あたりの平均採用コスト

物事への柔軟性や適応力を見ているから 

自己都合による早期退職(離職)を繰り返している場合、前向きにスキルアップをしたいのか、ネガティブな理由で転職を繰り返しているのかは面接で聞いてみないとわかりません。

面接では、どんな環境でも前向きに働いてくれるか、仕事への姿勢もチェックします。ただ前向きなだけでなく、これまでの経験を踏まえて、新しい環境でも柔軟に適応できるのか確認されていると認識しましょう。

入社後すぐの早期退職(離職)の理由を面接で伝える際の7つのポイント 

入社後すぐの早期退職(離職)の理由を面接で伝える際の7つのポイント

ここからは、早期退職(離職)の伝え方についてご紹介します。面接時、本音と建前の使い分けも重要です。面接での嘘はバレますし、入社後の自分の首を締めるだけでしょう。面接で気を付けるべき7つのポイントをお伝えします。

前職の悪口を言わない

退職理由を聞かれた際、たとえ事実だとしても会社の悪口と思われる発言は逆効果です。

面接の担当者も「この人が離職したら、うちの会社も悪口を言われてしまう」と感じるでしょう。悪口ではなく、厳しい環境の中でも成長できたこと、経験できて感謝している気持ちを伝えるのが無難です。

例えば、面接で悪口だと思われてしまう発言は以下の通りです。

  • ノルマがきつく、仕事が面白くなかった
  • サービス残業続きのブラック企業だった

理由に関係なく書面では「一身上の都合」とする 

採用担当者が真っ先に目にするものは、履歴書や職務経歴書などの書類です。たくさんの候補者がいる場合、その書類だけで落とされてしまうこともあります。いかなる理由があっても、退職・離職の理由は「一身上の都合」と書いておくのがおすすめです。

また面接へ進んだ際、面接官は書類だけではわからなかった部分を質問します。企業によって早期退職(離職)の重要度はまちまちです。聞かれたら答えればよいので、書面に必要以上の理由を書く必要はありません。

ポジティブで前向きな理由に置き換える

早期退職(離職)の経験を受け入れて、前向きに転職活動しているのか、自分は悪くないと社会や企業のせいにして転職活動しているのか、本人の気持ちは面接で必ず見抜かれます。いかなる理由でも、前向きな姿勢であることを伝える様にしましょう。

例えば、ネガティブな理由を次のように言い換えてみてください。

  • 「残業が多すぎて辛かった」 → 「正当な評価がもらえる環境で、自分の実力を発揮したい」
  • 「社内の人間関係が悪かった」 → 「チームで仕事する楽しさを得たい」
  • 「ブラックすぎて資格の勉強をする時間もなかった」 → 「充実した教育制度の下で資格取得したい」

志望動機と結び付けて退職理由を伝える

「転職の面接」についてアンケート調査(2021年)によると、面接でされた質問で多かったのは、「転職・退職の理由」と「志望動機」でした。

引用:株式会社ビズヒッツ 転職の面接に関する意識調査/「転職の面接でされた質問」

面接官から「志望動機を教えてください」と聞かれた際、退職理由と合わせて伝えれば、そこから気になったことや詳しく知りたいことを面接官が問いかけてくれます。柔軟なコミュニケーションを心がけ、面接に挑みましょう。

業界特有の言葉で話さない 

どれほどの知識を持った人が面接を担当するかは、当日までわかりません。まずは、誰が聞いてもわかりやすい言葉で伝えることを心がけましょう。

「わかりやすい言葉」イコール「幼稚な言葉」ではありません。日頃から、正しい日本語で会話する意識を持つのが重要です。

前職での経験は具体例と共に伝える 

「前職では、法人営業チームのリーダーを経験し、全力で取り組むことができました」では、初対面の面接官には何も伝わりません。営業先の企業業態、チームの人数、会社の業績と貢献度を含めて具体的に伝えましょう。

早期退職(離職)した会社で働いた期間が短かったとしても、経験値として得られているものが必ずあるはずです。

給与や福利厚生に関する不満は口にしない 

早期退職(離職)の理由が、給与にあったとしても、その不満を面接で伝えるのはやめましょう。

給与に不満があることを理由に転職する人もいますが、面接でその話をする人はほとんどいません。本音と建前は持っておきましょう。

他にも、「コロナ禍でも出社を強制された」「社内インフラが最悪」「経費をケチる上司だった」などわかってほしい不満もあると思いますが、過去は変えられません。グッと堪えておきましょう。

早期退職後の再就職面接で気をつけたい3つのポイント

ここからは、定年前に早期退職した人が、再就職する際に気をつけておきたいポイントを紹介します。早期退職(離職)とは気をつけておきたい部分が変わってくるため、あらためて確認しておきましょう。

上から目線で伝えない

これまでの経験を面接で聞かれた際、無意識に上から目線な言動になってしまうことがあります。これまでの経験は何にも変えられない素晴らしいものですが、面接は自慢話を披露する場所ではありません。

自分の経験を新しい企業でどのように貢献できるのか、企業側に寄り添って回答することを心がけましょう。

20代30代若手の頃と同じ理由にしない 

退職理由を聞かれた際、新卒社員の退職・離職理由にありそうな「企業風土や仕事が合わなかった」「人間関係で問題があった」と回答するのは避けましょう。 「もっと早く判断できなかったのか?」と面接官に思われてしまいます。

新しい環境で力を試してみたい、まだ挑戦したい気持ちがあるなどこれまでの経験を踏まえ、どんな心境の変化で早期退職に至ったのか伝えるようにしましょう。

会社に貢献したことを添えて伝えておく 

自慢話はNGと述べましたが、具体例や数値を用いて実際に会社に貢献したことを伝えるのはOKです。

例えば、「営業部で働いていましたが、人事部に直談判し、若手社員教育を提案。導入前と比べて若手社員の離職率を、3年で40%減らすことができました」など。業務以外でも会社に貢献したエピソードがあるといいでしょう。

早期退職に関するよくある質問

早期退職に関するよくある質問

最後に、早期退職に関する疑問と現状をまとめてご紹介します。定年前の「早期退職」と、数年で退職・離職してしまう「早期退職(離職)」と、それぞれ分けてお伝えしましょう。

定年前の早期退職を募る上場企業は増えている?

希望退職とも呼ばれる定年前の「早期退職」について、長期的にみると横ばいでしたが、ここ数年の新型コロナウイルスの流行により影響を受けた企業が実施し、リーマンショック時と同じ水準へと高まりました。

近年デジタル化が進み、業務の効率化が行われています。またコロナ禍で働き方が変わり、バブル期に大量採用された50代前後の人員の行き場が失われている現状もあります。今後、上場企業でも早期退職を募り、人員調整されることが予想できるでしょう。

早期退職(離職)は転職で不利になる?

「新卒1年目で退職するのは、転職で不利になる」と考える人も多いかもしれません。しかし第二新卒採用も一般的になり、3年以内の転職でも受け入れる企業が増えてきました。転職エージェントSpringの「第二新卒・既卒の採用状況」によると、全体の46.6%が第二新卒を採用したことがあると回答しています。

引用:アデコ株式会社 / 転職サイトSpringアンケート調査「第二新卒・既卒の採用状況

面接時にはどうして早期退職(離職)に至ったのか、丁寧に伝えることが大切です。また社会人経験を経て、今後の社会人人生をどのように歩みたいのかビジョンを伝えられると良いでしょう。

退職回数が多いと転職で不利になる?

何度も転職していると、転職活動で不利になるのでは? と考える人も多いでしょう。キャリアバイブルが調査した「転職に関するアンケート調査」によると、25.1%の人が5回以上の転職回数があると回答しています。

転職回数が多いからといって、転職活動で不利になるわけではありません。企業が採用基準において重視しているのは、「どのような理由で前の会社を退職し転職を希望しているか」に明確な理由があるかどうかです。

パワハラを理由に早期退職する人って多い? 

職場の「パワーハラスメント」の実態についてのアンケートによると、66.6%の人がパワハラを経験しています。さらに、72.9%の人が「転職・退職を考えた(転職・退職をした)」とも回答。まだまだパワハラを理由に早期退職する人は多いのが現状です。

「自分が我慢すればいい」と無理することなく、相談できる場所や人を頼りましょう。

引用:株式会社ワークポート/職場の「パワーハラスメント」の実態について

まとめ

定年前の「早期退職」と、入社から数年で退職・離職する「早期退職(離職)」の2つについて、違いを踏まえながら紹介してきました。

働き方が多様化し、ひとつの会社で勤め上げることだけが正解ではなくなりました。大切なのは、これから自分自身がどんな働き方をしたいかです。働き続けることを選ぶ人も、新しい環境で自分の力を試したい人も、現状を踏まえた上で自分らしい働き方を選択したいですね。