近年、終身雇用制度の陰りが見え始め、転職に対する意識の変化などから人材の流動性が高まっています。総務省の2021年平均の労働力調査(詳細集計)によると、転職者の総数は2011年で284万人に対し、2021年は288万人と年々増加傾向です。

また、転職者の増加に伴い、40代で転職を検討する人も増えました。日本人材紹介事業協会の調査を見ると、職業紹介会社大手3社の2021年度上期転職実績のうち、41歳以上の転職紹介人数は5710人です。この数値は前年同期比108.8%となります。

では、40代で転職を成功させるためにはどのように行動すればよいのでしょうか。この記事では、企業が40代に求めることや、転職活動を成功させるポイントについて解説します。具体的な40代の転職事例も載せているので、合わせて参考にしてください。

この記事の監修:勝田健氏
スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績あり。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。

 40代で転職を考える3つの理由

40代で転職を考える3つの理由

40代で転職を検討する人が増加傾向と述べましたが、どのような転職理由が考えられるのでしょうか。40代が転職を検討する理由は主に3つ挙げられます。

会社の将来に不安を感じている

日本マンパワーの調査によると、40代の約6割が「会社の業績・成長性・将来性」を不安だと感じています。

会社の業績が悪化すると、以下の事態が想定されるでしょう。

  • 経営方針の大幅変更
  • 事業縮小
  • 業績不振による減給
  • 整理解雇

経営方針が納得できないものに変更されると、経営層との考えにズレが生じ「自分はこの会社に合わない」と感じるようになります。事業縮小があると部署の予算や人数が減らされ、その結果、減給や整理解雇が行われる可能性もあるのです。

このような事態を恐れ、40代は会社の将来に不安を感じると、転職を検討する傾向があります。

キャリアップできるかどうかわからない

40代では、いままで培ってきた経験や経験を活かし、さらに上を目指してキャリアアップしたいと考える人がいます。

キャリアアップでは、主に以下のような事例が当てはまります。

  • 管理職になってマネジメントに携わりたい
  • 上流工程に携わりたい
  • 仕事の幅や裁量を広げたい
  • 新たな知識を習得し、仕事の専門性を高めたい

しかし、自分が目指すキャリアパスがいまの会社では叶えることが難しいと感じると「いまの会社に在籍したままでよいのか」と不安を抱くことになるのです。

「このままでは成長できない」「新しい経験ができない」と感じる状況が続くと、いまの会社でやりがいを見出せず、転職を検討しはじめてしまう可能性が高くなります。

いまの会社の人間関係に不満がある

人間関係のトラブルも転職理由として挙げられる理由のひとつです。令和2年雇用動向調査結果の概況によると、人間関係が理由で前職を辞めた割合は以下です。

40〜44歳45〜49歳
男性8.8%7.6%
女性18.4%11.1%
参考:-令和2年雇用動向調査結果の概況-

上司からの嫌がらせやパワハラ、セクハラ、同僚・後輩との関係など人間関係のトラブルの原因は職場環境によってさまざまです。一方で、人間関係の問題はどの会社でも起こり得るため、転職して必ずしも人間関係の問題が改善されるわけではありません。

転職先の人間関係は、実際に入社しないとわからない部分が多いため「人間関係の改善」だけを考えて転職すると、ミスマッチが起こる可能性もあります。

人間関係が理由で転職する場合、現状から開放されたい思いだけで考えるのではなく、仕事内容や年収、働き方も加味して転職先を選ぶことが大切です。

40代の転職成功者の割合は7〜8%

ここまで述べてきたように、上記のような背景から40代の転職者は増加しています。では、実際の40代の転職成功率はどれくらいなのでしょうか。

転職成功率といっても「希望した会社に転職できる確率」「どこかの企業に転職を成功させられる確率」など定義はさまざまです。また、条件を下げれば転職の成功率は必然と高まるため、一概に成功率を判断することはできず、成功率のデータもほとんど公開されていないのが現状です。

そこで重要な指標が転職入職率です。転職入職率を見ることで、「実際に転職を成功させた人の割合」がわかります。転職入職率とは常用労働者数に対する転職入職者数の割合で、過去1年以内に他の会社に勤めていた人が入職した割合です。

厚生労働省が発表した令和2年の調査結果によると、転職入職率は男女とも年齢が上がるごとに低い数値になります。40代男性の転職入職率は「40〜44歳」で6.2%、「45〜49歳」で5.2%と決して高くはありません。転職入職率は転職成功率と似たような指標です。

転職入職率:常用労働者数に対する転職入職者数の割合

転職入職者:入職者のうち、入職前1年間に就業経験のある者

40代女性の転職入職率も20代や30代と比較すると低く、「40〜44歳」で11.0%、「45〜49歳」で9.0%です。男性よりも女性の転職成功率が高いのは「雇用形態」が関係しています。

女性のグラフを見ると、一般労働者よりもパートの方が転職入職率が高い数値です。これは、一般労働者よりもパートの方が人件費を抑えられるため、企業はパートを採用する傾向にあるからです。

このように、40代の転職者は増えているものの、転職成功率の割合は他の年代と比較するとまだまだ低い水準にあります。

企業が40代の転職者に求めるスキルや経験とは

企業が40代の転職者に求めるスキルや経験とは

40代の転職成功率はまだまだ低い水準であるため、転職を成功させるためには入念な準備をしなければなりません。そのために、企業がどんなスキルや経験を求めているのか把握して転職活動に臨みましょう。

専門的なスキル

企業が40代を採用する際、転職者に対して20代や30代よりも「専門的なスキルがあるか」を重視します。転職先の企業が欲している専門的なスキルを持っていれば、即戦力になるからです。

企業は人材を採用するときにコストがかかるため、より教育コストがかからない即戦力人材を採用します。その結果、同じ40代であっても、転職先の企業が求める専門スキルをもつ人材を優先的に採用するのです。

企業が知りたいのは転職者がどんなスキルを持ち、企業にどのように貢献し、会社の課題を解決してくれるかです。40代の転職者は、いままで培ってきた専門的なスキルが転職先の企業で活かせることをアピールしましょう。

これまでの経験やスキルを活かせる企業を見つけることで、40代で転職を成功させる確率も上がります。

コミュニケーション力

仕事を円滑に進めるためにはコミュニケーション力が必須です。40代になると、世代が異なる上司や部下と関わったり、チーム全体の責任を負ったりする場面もあります。対人関係を良好にするためにはコミュニケーション力が大切です。

コミュニケーション力が高い人は話し相手の意見を引き出すのがうまく、どんな場面での会話にも対応できます。相手の話しやすい話題を選び、質問することで相手の意見を引き出します。

また、聞き上手な人もコミュニケーション力が高い傾向です。人の話を最後まで関心をもって聞くことで、相手との距離も縮められます。コミュニケーション力が高く、組織の人間関係を円滑に進められる40代は多くの企業で重宝されるでしょう。

マネジメント力

組織やチームのマネジメント経験がある人は「マネジメント力」も企業へのアピールポイントになります。なぜなら、マネジメント力は、組織の発展に必要不可欠だからです。

管理職は組織の発展のために人材の育成をしたり、組織をまとめていかなければなりません。そこで、企業はいままで培ってきたマネジメントスキルを評価し、40代を管理職として即戦力で採用する場合があります。

マネジメント経験は転職活動において武器になるため、アピールする際は以下をまとめるといいでしょう。

  • マネジメントした期間
  • マネジメントの人数
  • 持っていた目標
  • どのようにマネジメントをしたのか

実際に数字を交えてアピールすることで、転職先の企業は転職者のマネジメント力を判断できます。

40代で転職を成功させる5つのポイント

40代で転職を成功させるためには企業が自分に何を求めているのかを把握することが大切です。では、実際にどのように転職活動を進めていくのがよいのでしょうか。以下5つのポイントを解説していきます。

40代の転職市場を自分なりに調査してみる

40代で転職を検討している場合、まずは転職市場を自分なりに調査し、把握する必要があります。40代で求められるスキルや求人数、転職入職率を把握することで、自分の市場価値を客観的に判断できるのです。

40代は、転職市場で上述のように長いキャリアの中で培われた高いスキルが求められます。

  • 転職先の企業が欲する専門的なスキルの有無
  • 組織の人間関係を円滑にするコミュニケーション力
  • マネジメント経験を活かして組織を動かす力

40代の転職市場を理解しないまま転職活動を続けると、希望条件において理想と現実にズレが生じ、選択肢が狭まってしまいます。

企業は40代の人材にどのレベルを求めているのか、40代の平均年収・希望する業界の平均年収はいくらかなどを把握しておきましょう。

また、転職活動において「譲れない条件」と「妥協できる条件」を明確にすることも大切です。大事にしたい条件を明らかにしておくことで、企業の選択肢も広がります。

自身のこれまでのキャリアの棚卸しをする

40代で転職を成功させるためには、自身のこれまでのキャリアの棚卸しをしましょう。企業は採用において、40代に対し求めているポジションにマッチした人材かどうかを重視します。

キャリアの棚卸しをすることで自身の強みを的確に伝えられ、企業が求めるポイントを押さえてアピールできます。

キャリアの棚卸しをする際は、以下の内容を押さえて過去から順番に振り返るのがオススメです。

  • いままで経験した業務
  • 仕事の実績や工夫したこと
  • どんな姿勢で業務に取り組んだのか

書き出したものをまとめていくと、頻出するキーワードや実績を出したときの環境、共通している仕事の姿勢などが見えてきます。そこで出てきたものが自分の強みです。

転職先の企業が求めているものを分析し、自分の強みを使いわけてアピールすることで採用確率が高まります。

転職サイトに登録し求人情報を調べてみる

転職サイトに登録して求人情報を調べることで、さまざまな情報が得られます。転職サイトには多くの求人が掲載されており、希望する勤務地や年収、職種など自分自身で条件に合った企業を検索が可能です。

40代が転職を成功させるためには、大手からハイキャリア向けの転職サイトまで、幅広く併用して利用するのがよいでしょう。

大手転職サイトに登録すると、多くの企業のなかから希望条件に合った企業を見つけられる可能性が高くなります。ミドル層やハイキャリア向けの転職サイトを利用すると、大手転職サイトにはない高年収の求人や管理職・役員の求人などに出会う機会もあります。

転職サイトによっては、登録した情報を見た企業や転職エージェントからオファーが届くこともあるのがメリットです。このように転職サイトに登録することで多くの求人情報が得られます。

転職先での今後のビジョンを明確にする

40代の転職活動では、転職先の選考を受ける前に自分自身の今後のビジョンを明確にする必要があります。今後のビジョンを明確にすることで、転職先の志望理由も的確に答えられます。

今後のビジョンは、面接でも聞かれることが多い質問のひとつです。自社に対する志望度の確認や、転職者が客観的に自分のスキルを把握しているか確認するために企業は質問します。

いままでの経験を踏まえ、1年後や3年後にどのような人材になって、企業に貢献したいかを今後のビジョンとして伝えるのがよいでしょう。自分が実現したい今後のビジョンを伝えつつ転職先企業に当てはめて答えることで、よりマッチ度が高い人材と企業に評価されます。

転職エージェントに登録しサポートを受ける

自分ひとりで転職活動を進めることに不安がある場合は、転職エージェントに登録して無料相談を受けるのもひとつの方法です。転職エージェントは転職のプロであるため、最近の転職動向や情報を持ちあわせています。

転職エージェントに登録すると以下のサポートを受けられます。

  • 非公開求人の紹介
  • 専任キャリアアドバイザーとの無料面談
  • 履歴書や職務経歴書など提出書類の添削
  • 面接日程の調整、入社日の交渉

転職エージェントでは、転職サイトにない非公開求人も取り扱っています。採用戦略の背景から数社でしか募集をしていない求人もあるため、転職エージェントの求人もこまめにチェックしましょう。

専任のキャリアアドバイザーと面談すると、客観的に転職活動に関する意見がもらえるのも転職エージェントの特徴です。また、キャリアアドバイザーがいることで精神的な支えにもなります。

キャリアアドバイザーは多くの転職者の書類を添削してきたので、書類選考で通過しやすい書類の傾向もわかります。転職先の企業との間に立って話を進めてもらえるので、自分で転職先の企業とやりとりする手間も省けるのもメリットです。

転職成功につながる3つのアプローチ

転職成功につながる3つのアプローチ

5つのポイントを意識して転職活動することで、転職成功率は上がります。最近は転職先へのアプローチ方法も変化しつつあります。5つのポイントを押さえつつ、自分に合ったアプローチ方法で転職先を見つけましょう。

ビジネスSNSを活用する

最近では、ビジネスSNSを活用した転職活動も主流になりはじめています。ビジネスSNSを使うことで、仕事に関する情報収集ができたり人脈が広がったりします。

転職で使用する際にオススメなのはLinkedInやWantedlyです。LinkedInはアメリカ発のSNSで、世界で約8億人のユーザーが利用しているSNSです。

前職の友人とつながったり、企業を離職・退職した人の集まり「アルムナイ」のコミュニティもあったりするので、人脈を広げられます。国内外の企業ページがあるので海外の企業情報もチェックできるのが特徴です。

採用手法のひとつとしてLinkedInを利用している企業もあるので、LinkedInに登録することで転職成功につながる可能性も秘めています。

Wantedlyは、給料や待遇などの条件ではなく「やりがい」や「環境」で企業と求職者をマッチングするSNSです。エンジニアやデザイナーなどIT人材のユーザーが多く登録しています。

転職サイトのように求人を探したり、企業へのエントリーも可能です。企業からのスカウト機能もあるので、自分の経歴を登録するといままで出会えなかった企業からスカウトメールが送られてくることもあります。

ビジネスSNSを有効に活用することで、いままで出会えなかった企業や人と交流でき、従来の転職活動よりもチャンスが増えるでしょう。

社会人を対象にしたインターンシップに参加する

キャリアを広げる手段として、社会人を対象にしたインターンシップが注目されています。インターンシップは社会貢献や収入を得るためだけではなく、自分の市場価値を知るきっかけにもなります。

他の職種の人との交流も増えるので、社外の人脈や視野が広がるのが特徴です。社会人を対象としたインターンシップは、社会人インターンシップ紹介サービス「サンカク」などを利用すると見つけられます。

転職のために利用するだけではなく、新たなキャリアプランを見つけたいと考える人にとっても有意義な経験となるでしょう。

知り合い経由で仕事を紹介してもらう

40代が転職先を探す際、転職サイトや転職エージェントだけではなく、知り合い経由で仕事を紹介してもらうケースもあります。ベンチャー企業を中心に、リファラル採用として人材を獲得しています。

マイナビの転職動向調査によると、リファラル採用の一環として知人や友人を紹介したことがある人の割合は40代の男性で約30%です。

このように、リファラル採用は少しずつ認知されつつある採用手法です。リファラル採用で内定をもらうためには、いままで培ってきた人脈を大切にしましょう。

リファラル採用は、転職サイトや転職エージェントよりも企業の情報を知人や友人から得やすいのが特徴です。また、知人や友人からの紹介だと、企業からも信頼されて採用される可能性が高いので入社する前から良好な人間関係を築けます。

キャリアコーチに聞いた | 実際の40代の転職成功事例

実際に40代からの転職事例について、キャリアコーチの方々に聞いてみました。

転職がうまくいった理由、転職活動において工夫した点などをまとめたので、ぜひ参考にしてください。

元の業界・職種大手メーカー(海外営業マネージャー)
転職先の業界・職種中小メーカー(海外営業部長)
転職に至った理由コロナによる業績悪化。
リモートワークになり、今後のキャリアを考える時間が増えた。
海外への出張が難しく、今後海外に日本人を派遣しない方向性もある中、今の会社に残るかどうかを考え始める。
また、外部に経験を生かせる場所がないかなど、自分自身の身の振り方に悩んでいた。
転職で工夫したこと大手エージェントのビズリーチに登録し、できる限り自身の経歴を細かく記載。
転職エージェントには今までの経験、不安や悩みを相談し、職務経歴書を修正した。
ビズリーチでスカウトがあったエージェント、ヘッドハンターとは全て話した。
元の業界・職種大手消費財メーカー(新規事業マーケティングマネージャー)
転職先の業界・職種大手メーカー(新規事業開発責任者)
転職に至った理由コロナにより業績が悪化し、自社の新規事業への投資が凍結。
新しいことができなくなり転職活動を開始する。
転職で工夫したこと大手エージェントのビズリーチ、リクルートダイレクトスカウトなどに登録。
転職エージェントには3年以上前から登録しており、定期的に良い案件があれば応募していた。
しかし、たまにしか求人に応募せずほぼ活動していなかったため 動き方を変え積極的に応募を開始した。
元の業界・職種中堅上場メーカー(経理部門責任者)
転職先の業界・職種中小メーカー(財務部長)
転職に至った理由コロナによる業績悪化、さまざまな新規プロジェクトが頓挫する中、「自分はいずれ会社で必要なくなるのでは?」と思い転職活動を開始。
転職で工夫したこと複数の転職エージェントに登録し、エージェントから応募する企業の課題や状況を情報収集した。
特に「なぜ責任者なのに転職するのか」という部分の転職理由についてエージェントと相談し工夫をした。

まとめ

このように、40代で転職活動を成功させるためには

  • 転職成功率や転職市場を把握する
  • これまでのキャリアを振り返り、強みをアピールする
  • 今後のビジョンを明確にする
  • 自分に合った転職サイトや転職エージェントを活用する
  • さまざまなアプローチ方法を用いて転職活動の幅を広げる

などを取り組むのがオススメです。方法はひとつではないので、自分の状況にあった手段を活用しましょう。

また、実際の40代の転職成功事例も参考にすることで、自分が転職活動するときのイメージも湧きやすくなります。40代での転職成功事例を参考にして、自分が実現したいキャリアのために行動に移していきましょう。