今、ミドルキャリア世代のキャリアデザインの重要性が高まっています。働き方が多様化し、スキルを持った人材が転職を繰り返しながらキャリアを構築することが当たり前になりつつある今、1社で長く働いてきたミドルキャリア世代は、どうしても自社に局所最適化されてしまい、社外での活躍機会を見失ってしまう傾向にあります。

あわせて、早期退職を募集する企業も増加し、ミドルキャリア世代を企業にとっての負担と捉え、若年層への投資を活発化させる企業も増えてきました。

ミドルキャリア世代は、どのようにキャリアをデザインし、変化の激しい現代で生きていけばいいのでしょうか。

今回の記事では、難関の国家試験1級キャリアコンサルタントの資格を持ち、現在サイボウズの人事部にて、キャリア支援やチーム支援など幅広く手がける近長氏に、ミドルキャリアのキャリアデザインのコツについて伺いました。

近長 由紀子氏・・・サイボウズ人事本部(キャリア支援、チーム支援)、1級&国家資格キャリアコンサルタント
サイボウズでチーム運営支援とキャリア支援を担当しながら、複業で企業研修や個人向けセミナーなどを実施。1級&国家資格キャリアコンサルタント、児童学修士(心理専攻/専門はフロー理論)。対話型のセミナー設計やファシリが得意。

知人からの誘いで転職を決めた|近長さんのキャリアの作り方

転職を繰り返しながら、さまざまな経験を積んできたという近長氏。これまでに、どんなキャリアを歩んできたのでしょうか。

ーーこれまでのキャリアの変遷を教えてください。

近長:

ファーストキャリアは事務職として総合商社に入りました。
男女雇用機会均等法が施行されたばかりで、まだ男性中心の社会。しかし、配属先のシステム開発部が、丁度、全社システム化プロジェクトの真っ最中で、猫の手も借りたいほど忙しかったんです。

上司に恵まれたこともあって、私も総合職の男性達に混じって担当者としてシステム開発や導入研修に携わることになり、鍛えられました。

でも、6年経って上司が変わり、転職を決めました。新しい上司は「事務職なんてお茶汲みだけしていれば良い」という考え方で、モチベーションが大きく損なわれてしまったんです。

ーーその後のキャリアはどのように変わっていったのでしょうか?

近長:

転職先はグロービスでした。知人から誘いを受けたことがきっかけです。まだ創業期だったので、事業の立ち上げを担っていました。
グロービスではマーケティングや広報、スクール事業の説明会や受講生のサポートなど幅広く担当していましたね。

グロービスには10年ほど在籍していましたが、産休育休を2回とりましたね、当時では珍しく、産休や育休をとったのは私が初めてで、国の制度を会社に説明する必要もあり、大変でしたね(笑)。

その後はキッザニアに転職しました。この転職も、知人から声がかかったことがきっかけです。
グロービスで社会人向けのスクールを運営する中で、子どもの頃から染み付いた考え方の癖は大人になってから変えようとしても、難しいということを実感していました。

そこでキッザニアで子どもにアプローチしようと考えたんです。

その後、サイボウズへの入社に至ります。

ーーキャリアのなかで意識してきたことはありますか?

近長:

人は環境次第だと思っていて、「人の育成」に興味がありました。

今までのキャリアを振り返ると、グロービスでもキッザニアでも人材育成に関わっていた点が共通しています。
グロービスはまさしく社会人に学びや成長の環境を提供する仕事でした。

そして、子どもに成長の環境を提供する仕事がしたいとキッザニアに転職したのですが、キッザニア東京とキッザニア甲子園をオープンさせた後、次は会社の看板になるようなカリスマスーパーバイザーを育ててくれと頼まれたんです。
でも、広告塔を作るという仕事には全くやる気が起きなくて(笑)。

しかし、発想を変え、階層別研修にして、その最上位にカリスマスーパーバイザーを配置できれば、全員に学びと成長の環境を提供できます。
「人の育成」をしっかり考えられる機会だと思い取り組みました。

その中で、人が大きく変わる瞬間を目の当たりにしました。

きちんと場を与え、環境で人は成長していくことを実感した経験でした。

ーーキャリアコンサルタントの資格をとったきっかけはありますか?

近長:

研修をしていると、新人研修でもマネジャー研修でも、数年後にどうなっていたいかといったキャリアの話が必ず出てきます。
個別にキャリアの相談を受けることもあります。

それなのに、人材育成のプロとしてキャリアの専門知識がないことが気になっていました。

そんな時に知人が開催した飲み会で目の前に座った人が偶然キャリアコンサルタントだったんです。

それをきっかけに資格を取得しました。

ーーキャリアコンサルタントの資格が実際に生かされた場面はありましたか?

近長:

キャリアの専門知識をふまえた研修ができるようになったことが一つです。
さらに、キャリアコンサルタントとして「聴く・問いかける・整理する・概念化する」といったスキルを学んだことが、さらに人材育成の場で役に立ちました。

管理職がメンバーの育成をするときにも大切ですし、色々な会社で導入している1on1でも大切なスキルなんですよね。

複業で生まれる相互作用|キャリアデザインにおける複業の重要性

キャリア自律の鍵は複業にあり。キャリアコンサルタントの資格を取ることで更に活動の幅を広げた近長氏ですが、キャリアを築く中でいくつかの仕事をかけ持つ複業を実践しています。

ーー近長さんは、今はいくつの複業をしているのでしょう?

近長:

大きく3つの仕事をしています。

メインとなる仕事は、サイボウズの人事本部のキャリア支援とチーム支援です。また、鎌倉女子大学でキャリアデザインを教える仕事もしています。そして最後はキャリアコンサルタントの仕事ですね。

ーー複業の恩恵を感じることはありますか?

近長

3つあります。

1つ目は、仕事同士の相互作用が発揮され、お互いの経験を生かせる点です。

2つ目はバランスが取れることですね。仕事には波がありますが、一つの仕事で凹むことがあっても、別の仕事でバランスが取れる点も複業の重要性を感じます。

一つのダメなことをきっかけに自分を全否定する負のループに陥らずに、同じことでもこの場では評価されなかったけど、別の場では評価されていると、客観的に見ることができます。

逆に、一つの場で通用したことが他の場でも通用するとは限らないことも実感するので、天狗にもならずに済みます。

3つ目は、一つの世界だけで自分を評価せずにすむことです。

一つの仕事だけでは、仕事の成果が自分のスキルによるものか、社名や肩書きによるものか、わかりづらくなってしまいます。
そこに気付かずに、勘違いしてしまう方が多いと思います。

肩書だけがその人の評価ではありません。一つの場所だけで成果を出すよりも、複業をこなす中で、社名や肩書きに左右されずに役に立てる人材になることが大事だと思います。

今、働いている会社で何をやっていても、社外では役に立つとは限りません。自分のどのスキルなら戦えるのかを考えられる人が活躍できる人材になると思います。

ーー複業の始めるきっかけがないと悩む人も多いと思います。複業のきっかけはどのように掴めばいいのでしょうか?

近長

昔と違って、今は複業も始めやすくなっていると思います。紹介してくれる会社もありますし、探せば機会は見つけられると思います。

また、お金をもらうことだけが複業ではありません。保護者会などの地元での活動なども、立派な複業の一つです。会社の肩書に関係なく、コミュニケーションをきちんととれるかどうかを試せるからです。

会社では、共通の目標に向かってみんなが一致団結しますが、会社の外では共通の目標が全てではありません。会社以外でも活躍する機会を探すことで、切り替えが上手になります。

金銭的な報酬の有無に関わらず、日常の中で自分のスキルを試す意識ができるかが重要です。

なにか始めたいと思ったら、とにかく動きましょう。
私が、キャリアチェンジの際に知人の紹介が転機になったように、人に会うことだけでなく、いつもと違う場所に足を運ぶこと、興味を持ったことをとことん調べてみることなど、動けば動く分だけ得られることがあると思います。

ミドルキャリア世代のキャリアデザインは「自己一致」ができているかどうか

ミドル・シニア世代のキャリアデザインでは、これまでの経験を振り返ってスキルの棚卸しをしたり、自分の強みを活かす場所を見つけることが大切です。
近長氏が感じているミドル・シニア世代のキャリアデザインの課題はどんなことでしょうか。

ーーミドルキャリア世代の課題は何だと思いますか?

近長:

40代、50代といっても、一括(ひとくくり)にはできません。

社会に出たときの環境が全く違うので経験したことも全く違います。バブル世代なのか、バブルが終わってから社会に出たのかで体験が変わっているからです。

一概に他の人と比べることに意味はないと思っています。ミドルキャリア世代と括らずに、自分はなにができるのかを追い求め、ギアをたくさん集めることが必要だと思っています。

同質性が高ければ「これだけをやればいい」という絶対的なアドバイスができますが、いろんな価値観が混ざった世代の方々です。そこが一番つらく大変な世代でもあると思います。
だからこそ、自分で考えることでしか答えは出せません。突き放したように聞こえますが自分でしか答えが出せないんです。

キャリアコンサルティングでは「自己一致」という考えがあります。

「自分がありたい理想の姿」と「自分の本音」を理解し、両社が一致した状態であると安定して自分らしく仕事に取り組めます。

その時に重要なのが、「自分が本当になにをやりたいか」を認識するということです。

とはいっても、「やりたい」ってそんな簡単に分かるものじゃない。

そんな時は、「これだけはやりたくない」を認識してみることです。そうすれば、それ以外の全てが可能性になるわけですから(笑)。

自分の適性を知るためにも ”啓発的経験” がとても大切で、意思決定の前にどんどん体験してほしいです。

金銭的な報酬にこだわらず、さまざまな場所で複業などの経験を積むことが自己理解につながります。

ーーこれからのキャリア形成を考える上で近長さんが大切にしていることはなんですか?

近長:

私が、自分の中で「自分が目指したい像」を明確に持っているかと言ったら、実はありません。

キャリアの世界では「今ここ」という考えがあります。

過去への執着や未来への不安を一旦わきに置き、今に向き合い、今できることを精一杯やる。そこから新たなキャリアが形成されていく。

もしくは、振り返ってみたらいつのまにか道ができている。

変化が激しい世の中で、状況が変わっている過去に執着しすぎたり、不確実な未来を心配しすぎても、逆にどうしてよいか分からなくなってしまいます。

そこで私が大事にしているのはアメリカの心理学者ハリィ・ジェラットが提唱した「積極的不確実性」という考え方です。

昨今のコロナの大流行のように、将来どうなるかわからないという不確実性をありのままに受け入れ、前向きに捉えることで、新たな意思決定を行っていく考え方です。

この時には、理性的に俯瞰することが大切な一方で、自分の感性を信じることも大切なんです。その上で試行錯誤する。試行錯誤なので成功するとは限らない。こうしたら失敗するんだという経験も重ねていく感じです。


動くことで偶然に出会う機会も増えるかもしれません。

偶然を待つのではなく、自ら動いて選択し、意思決定をしていくことはキャリア形成で大事なことだと思っています。

過度に不確実性を恐れるのではなく、時代や環境の変化に対応し、柔軟に考えられる自分であり続けたいと思います。

そのためにはこれまでの経験や培ったスキルだけを頑なに固持するのではなく、時にはアンラーンもしながら、新しい機会に飛び込み、学び続けたいと思っています。

おわりに

自分のやってきた経験や誇りから自分のスキルを棚卸し、かけ算をするとその人だけの付加価値が見えてきますね。
みなさんが持っている「価値」は誰を喜ばせるものでしょうか?そこをはじめに考えることが新たなキャリア形成のスタートになりますね。ぜひ参考にしてみてください。

新しい環境に飛び込むことをいとわない近長氏だからこそ見えた世界。
ミドルキャリア世代のキャリア形成においても、複業という形で自分の本来の価値を試していくからこそ、さらに活躍の機会を広げられるでしょう。

みなさんのキャリアデザインの参考になれば幸いです。