働き方の多様化が叫ばれる今、キャリアの選択肢も多様化し、自分のキャリアを企業に委ねるのではなく、自身が主体となって考えるキャリア自律の考え方が重要になっています。

転職や副業、独立など、私たちは目指すべき姿に向かって、適切にキャリアを選択する必要性が高まっているのです。

そこで重要性が増したのが「キャリアの棚卸し」です。「キャリアの棚卸し」では、これまでのキャリアで積み重ねたスキルや知識を洗い出し、強みを見つけます。キャリアの棚卸により、自分自身が理想とするキャリアを明確にし、新たな一歩を踏み出すことにつながります。

キャリアの棚卸しができている人はなかなかいないのが現状です。キャリアの棚卸しの方法について悩む人も少なくありません。本記事では、キャリアの棚卸しのメリットから具体的な方法まで詳細に解説します。

この記事の監修:勝田健氏
スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績あり。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。

キャリアの棚卸しとは?

キャリアの棚卸しは、これまでの仕事を通して積み上げたスキルや知識を時系列に掘り下げ自分の強みを見つけることを指します。

大きな成果や希少なスキルにこだわらず、普段の業務や経験から、どんなスキルや知識、価値観を得てきたのかを分析します。キャリアの棚卸しを通して、自身の強みや価値観を明確にすることで、転職や復業など、キャリアを広げる次なる一歩目に繋げられます。

特に、キャリアの棚卸しは転職の際に注目することが多いでしょう。なぜなら、理想の転職先を知るには、自己分析が必要不可欠だからです。

キャリアの棚卸しで、自分の強みを見つけるために自己分析をするポイントは以下の4点です。

  • 逆境や課題を乗り越えるために工夫したこと
  • 数字で説明できる成果や実績
  • 周囲からの評価やポジティブな反応を得られたこと
  • 自分が大切にしている価値観

これらを洗い出すことで、自分の強みを把握できるようになります。自分の強みを把握し、次のキャリアでどのように活かせるのか考えましょう。

Sansan株式会社の調査によると、キャリアの棚卸しができている人は2割未満という結果になっており、キャリアの棚卸しがしっかりとできている人は多くありません。

世代別に見ると、20代から50代にかけて、年代が高くなるほど、キャリアの棚卸しがおろそかになる傾向が見られます。これは、まだ成長の余白があるとされる若年層は、転職などが活発な傾向にあり、自身の強みを明確にする機会が多いことなどが理由として考えられます。

また、キャリアの棚卸しをする理由で最も多いのは「自分のスキルを見返すため」でした。

自身のスキルについて正確に把握し、主体的にキャリアを考えられる人ほど、キャリアの棚卸しを行っている傾向にあります。

キャリアの棚卸しの目的

書類選考や面接でアピールするためには、あらかじめキャリアの棚卸しをする必要があります。なぜ、キャリアの棚卸しをしなければならないのでしょうか。キャリアの棚卸しの目的について解説します。

キャリア自律に繋がるから

キャリアの棚卸しはキャリア自律につながります。

キャリア自律とは、主体的に自身のキャリア開発に取り組むことです。終身雇用や年功序列など、企業に頼る形の働き方が見直されつつあり、キャリア自律の重要性が増しています。

キャリア自律では「個人が主体的・継続的に取り組む姿勢」がポイントです。企業から与えられる機会に頼るのではなく、自分の意思でキャリアを形成する積極的な姿勢がキャリア自律といえます。

幅広い可能性を見据えて自律的にキャリアを形成していく力を養うために、キャリアの棚卸しは必要なのです。

転職活動の自己PRの解像度をあげるため

キャリアの棚卸しでは、仕事の中で経験してきたことを時系列で掘り下げます。これまでの職歴や携わった業務を洗い出すことで、選考の際に自己PRの解像度をあげてアピールできるのです。

これまで携わった業務以外にも「どのような姿勢で仕事に取り組んできたか」など、自身の仕事に対するマインドなども合わせて分析しましょう。これにより、自分の長所や短所、向いている仕事や苦手な仕事なども見えてきます。

適切なキャリアの棚卸しによって、過去の自分を客観的に捉えられれば「自信を持ってアピールできることは何か」を見つけられ、転職活動もスムーズに進められるかもしれません。

自分の強みを理解するため

転職活動において、自分の強みを理解することは重要です。キャリアの棚卸しをすることで、自己PRと同様に過去の自分を客観的に捉えられるため、自分の強みを発見できます。

例えば、以下のようなスキルや知識が自分の強みとなります。

  • 希少性の高い知識や経験
  • 自分ならではの専門性
  • 秀でているポータブルスキル(業種や職種が変わっても持ち運び可能なスキル)

キャリアの棚卸しの3つのメリット

キャリアの棚卸しの3つのメリット

キャリアの棚卸しには、次のようなメリットがあります。キャリアの棚卸しで得られる3つのメリットについて見ていきましょう。

履歴書・職務経歴書のブラッシュアップに役立つ

キャリアの棚卸しを通して、よりブラッシュアップされた履歴書・職務経歴書を作成できます。

キャリアの棚卸しでは、ただ「何をしていたか」だけではなく、獲得したスキルや実績、目の前の仕事にどのような姿勢で向き合ってきたかも含めて分析します。

さまざまな角度で自分のキャリアを振り返ることで、自分自身の強みやエピソードを集められるのです。履歴書・職務経歴書を作成する前にキャリアの棚卸しをした結果、効率的に転職活動を進められます。

企業とのミスマッチを防げる

キャリアの棚卸しにより、より自分にあった転職先企業を探せるようになります。

キャリアの棚卸しをすると、自分がどのようなスキルを持ち、どのような職場であれば、スキルを活かせるのかを客観的に考えられます。また、仕事観もあわせて客観的に分析できます。時間が経つと過去に経験した仕事内容は忘れがちですが、それらの経験をもとに私たちの仕事観が形成されるため、時系列でキャリアの棚卸しをすることによって知識やスキルだけでなく、仕事観(マインド)まで網羅的に自己分析できるのです。

その結果、企業が求める人物像に自分はどれくらい当てはまるのかわかるようになります。転職サイトで情報収集するときも「ここは自分が働きやすそうな職場だ」と判断しやすくなるかもしれません。

キャリアプランの選択肢が広がる

キャリアの棚卸しでこれまで仕事を通して得た経験が明らかになると「これからのキャリアをどのように築いていきたいか」を考えるヒントになります。

過去を分析することで、キャリアプランを考えるヒントになるのです。

キャリアプランを考える上で重要なのは、自分の現状と未来の理想の姿のギャップを明確にし、そのギャップを解消できる計画をつくることです。自分の現状を明らかにしなくてはキャリアプランはつくれません。

キャリアの棚卸しは、自分の過去の経験をもとに、現状の自分を考えるきっかけになります。その上で、自分が目指す理想像を確立させると、それに近づくためには、どのようなスキルや知識、経験が必要なのか道筋が見えてきます。

また、キャリアの棚卸しによって、日々の仕事への向き合い方にも変化が出る可能性もあります。日々の行動が変化すると得られる結果も変わるため、キャリアプランの選択肢も広がるのです。

キャリアの棚卸しの具体的な7つのステップ

キャリアの棚卸しの具体的な7つのステップ

目的やメリットを理解した上で、実際にキャリアの棚卸しをしていきましょう。では、キャリアの棚卸しをするためには、具体的にどのような内容を実行するのがよいのでしょうか。7つのステップに分けて、解説していきます。

ステップ1:自分の職務経歴を振り返る

まず、自分の過去経験してきた職務経歴を振り返りましょう。最初に入社した会社から現在の会社に至るまで、どのような経験をしてきたかを書き出します。

転職ではこれまでの経験からアピールポイントを考える必要があります。

自分の経歴を整理するとき、以下のポイントを押さえてまとめていきましょう。

  • 会社名
  • 企業の規模
  • 事業内容
  • 所属部署
  • 職種

同じ職種でも昇進や転職によって役職が変わる場合もあります。営業職は「営業リーダー」や「営業マネージャー」などを任された経験もあるかもしれません。エンジニアでは、「プロジェクトリーダー」や「プロジェクトマネージャー」を任される人もいるでしょう。

どれくらいの期間、その仕事を担当していたのか、時期と照らし合わせて書いていきましょう。

ステップ2:これまでの業務内容を整理する

大枠の職務経歴をまとめられたら、担当した業務を整理していきます。キャリアを振り返るにあたり、現在や直近の内容から書き出すと取り組みやすいでしょう。

まずは出勤してから帰るまで、1日の中でどのようなことをしていたかを時系列で書き出すのがおすすめです。

例えば経理の仕事を振り返ると、1日の中で以下のような項目が出てくるでしょう。

  • 9時にメールのチェックと朝礼
  • 14時から給与計算
  • 16時担当者への電話確認

少しでも携わった業務はすべて書き出すのがポイントです。1日からはじめたら1週間、1ヶ月、1年と振り返ることで、業務内容を整理しやすくなります。

ステップ3:今までの成果や工夫した点を書き出す

企業は採用において、ポジションにマッチした人材かどうかを重視します。業務内容をまとめ終えたら、それぞれの場面でどのような成果を出したのか、どのように工夫して業務に取り組んだのか書き出します。

以下のような内容があれば成果に当てはまるでしょう。

  • 3年間常に全社の営業成績3位以内に入っていた
  • 社内の情報管理システムを作り、業務効率化に貢献した

具体的な数字や事実を書くと、採用担当も納得のいく内容となります。具体的な数字で表せない場合は「お客さまから感謝の手紙をいただいた」「社内で評価された」などでもよいです。ポイントとして、達成感ややりがいを感じたことを書くのがよいでしょう。

仕事の中で工夫したことや意識したことを書き出すことで、仕事に対する姿勢の言語化につながります。例えば「お客さまのニーズを聞くことを徹底した」も工夫したことのひとつです。

今までの成果や工夫したことを可視化することで、自身の強みを的確に捉え、企業が求めるポイントを押さえたアピールができます。

ステップ4:書き出した項目を一覧にまとめる

書き出したものを一覧にまとめると、頻出するキーワードや成果を出したときの環境、共通する仕事の姿勢などが見えます。そこで出てきたものが自分のスキルや強みになるのです。

企業が採用において求めるポイントは転職先の企業ごとに異なります。転職先の企業がどのような人材を求めているか分析してアピール方法を変えることで、採用される確率が高まります。

まとめ方がわからない場合、厚生労働省が用意している「自己棚卸しシート」を参考にしましょう。用意しているツールを参考に項目を埋めることで、自分の強みが見えやすくなります。

ステップ5:自分の持っているスキル・強みを理解する

項目をまとめ終えたら、自分の持っているスキル・強みへの理解を深める必要があります。「WILL・CAN・MUST」のフレームワークを用いて考えましょう。「WILL・CAN・MUST」とは以下を表します。

  • WILL:やりたいことや意思、希望
  • CAN:できること、能力、スキル、才能、実績
  • MUST:やらねばならないこと、求められていること、期待、責任

今までの経験を整理すると、自分が現時点でどのような「CAN」を持っているのかが見えてきます。また、自分が持つ「CAN」を把握して足りない部分は何か見つけることで「CAN」を得るための行動に移りやすくなります。

以下はライフシフトラボ・ジャーナルを監修しているのキャリアコーチのインタビュー記事記事です。

>>関連記事ライフシフトラボジャーナル「40代からの「キャリア自律」は複業から|転職エージェントが教えるキャリアシフト術

ステップ6:キャリアにおける目標を設定する

キャリアの棚卸しでは、過去を振り返ってスキルや強みを理解するだけではなく、その後のキャリアにおける目標設定も大切です。

長期的な目標だけではなく、マイルストーン(中間目標)も細かく設定していきましょう。マイルストーンを設定することで、長期的な目標を達成する確率も上がります。

マイルストーンは1ヶ月や3ヶ月、6ヶ月、1年単位で設定するのがおすすめです。細かく設定することで、自分が今すべき行動が見えてきたり、軌道修正がしやすくなったりします。

「WILL・CAN・MUST」がはっきりしている人ほど、転職は成功しやすい傾向があります。「CAN」だけを意識するのではなく「WILL」にも注目していきましょう。

ステップ7:自分の強みとキャリアの方向性をマッチさせる

自分の強みとキャリアの方向性が異なってしまうと、自分が理想とするキャリアから乖離してしまうこともあります。「WILL・CAN・MUST」のそれぞれが結びつかなければ、転職活動はうまくいかないでしょう。

自分の「CAN」と転職先の「MUST」がマッチすれば、採用される確率は高いかもしれません。しかし「WILL」がマッチしていなければ、また転職を繰り返す可能性があります。

「自分は何がやりたいのか」「どのような人生を送りたいのか」の「WILL」を明確にすることで、転職先の企業の定着につながります。

「WILL」と「CAN」を明確にし、その上で会社から期待される「MUST」が重なる企業を探すことで、納得のいく転職先が見つかるのです。

キャリアの棚卸しのポイント

キャリアの棚卸しをする際には、過去の経験を振り返り、未来で何を達成させたいのか考えなければなりません。ここでは、キャリアの棚卸しをする上で着目すべき4つのポイントについて解説します。

定量的なデータを用いる

キャリアを実現するためには、自分の強みを明確にし、今まで築いてきたキャリアの中で得た経験やスキル、知識を分析する必要があります。その際、具体的な数字をもとに定量的なデータを用いて分析すると、人に伝える際に納得感を持ってもらいやすくなります。

また、志望動機の作成においても定量的なデータを用いることは重要です。営業職を例にすると「目標数値に対して、120%で達成した」と定量的に伝えることで、説得力が生まれます。その結果、採用担当者は候補者が自社で活躍できる人材なのか判断できるのです。

ライフプランとセットで考える

キャリアを考える上で、ライフプランの存在は欠かせません。家族がいる人は転職や定年退職など自身のキャリアに関することだけでなく、子どもの入学・卒業、両親の介護など家族に関するイベントも発生します。

キャリアプランとライフプランはどちらか一方のみを考えたり、別々に考えたりしてしまうと整合性がとれません。ライフプランを設定すると、以下のメリットが挙げられます。

  • これからの収入・支出を把握できる
  • 先を見据えて考えることで、お金に関する不安が減る
  • 貯金・節約のモチベーションにつながる

キャリアプランとライフプランをセットで考えることで、よりよいキャリアを歩むためにどのような行動をすればよいかの指針ができるのです。

第三者から客観的なアドバイスをもらう

転職を検討するまで、キャリアプランを立てたことがない人もいるでしょう。はじめてキャリアの棚卸しに取り組むとき、何から考えればよいのかわからない人も見られます。

そのような状況に陥ったら、身近な第三者に客観的なアドバイスをもらいましょう。知人や先輩でも問題ありません。自分が目指すキャリアに近づけるよう、参考になる人に相談するのがおすすめです。

もし相談する人がいない場合、プロに相談するのもひとつの方法です。キャリアコンサルタントとの面談や、キャリアコーチングを受けることで、新たな視点での発見が得られる可能性もあります。

自分の目指すべき方向性が正しいのか判断してもらえるのが、第三者から客観的なアドバイスをもらうことのメリットです。

まとめ

キャリアの棚卸しをすることで、以下のメリットが挙げられます。

  • 履歴書・職務経歴書を作成する際のブラッシュアップ
  • 企業とミスマッチする確率の減少
  • キャリアプランの選択肢の増加

7つのステップを経てキャリアの棚卸しを実践することで、自分の納得のいく転職先を見つけられます。

ライフプランを考えつつ、キャリアプランについても考えていきましょう。キャリアプランを考える中で、キャリアの棚卸しがうまくいかない人は、ライフシフトラボの活用もご検討ください。

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