40代・50代のミドルシニア層は、早期退職募集や役職定年、セカンドキャリア研修などにより、会社員生活の終わりを意識する年代です。その一方、人生100年時代においては、キャリアはまだ折り返し地点を過ぎたばかり。
終身雇用制度が変革され、ジョブ型雇用シフトが進む中、一社に依存しない自律的なキャリア形成がミドルシニア層の喫緊の課題となっています。
ところが、人材紹介大手3社の転職紹介実績のうち41歳以上の割合は約15%にすぎず(*1)、多くのミドルシニア層は「45を過ぎたら、とたんに転職求人がない」「子どもや住宅ローンのことを考えると、起業のリスクはとれない」と感じています。
*1出典:一般社団法人 日本人材紹介事業協会「人材紹介大手3社 転職紹介実績の集計結果 2021年上期」
この記事では累計70名以上のCxOポジションに紹介実績がある、ハイクラスに特化した転職エージェント 勝田健氏に40代の転職の現状やキャリアシフトのノウハウについて伺いました。
勝田健氏・・・東京都生まれ。スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績有り。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。
ーー 近年、40代以降の転職希望者の数は、どのように変動していますか?
勝田:近年、全年齢層で転職希望者が増えている傾向にあります。しかし、実際に転職を実現させた人の数は減少しています。転職に興味はありつつも、時間がなく実際に動けていない人や、決心がつかず活動に踏み切れない人が実は多いのです。
特に外食や小売など店舗系の分野で転職希望者が増加するなど、業種によるばらつきが大きいのがコロナ禍による影響の特徴です。
リーマンショック時と新型コロナウイルスの感染拡大を比較すると明確な違いがあります。リーマンショックでは、金融系の企業が打撃を受けましたが、戦略系のコンサルティング会社や事業会社に転職する選択肢がありました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けている外食や小売などの産業では、その業界に特化してしまっているため、他の業界でスキルが生かしづらいという課題があります。
ーー ホワイトカラー系の40代のハイクラス層では転職動向はどのようになっていますか?
勝田:ホワイトカラー系の事業会社でも40代のハイクラス層の求職者がとても多い状態になっています。
Web系の企業では、スタートアップでも事業会社でも30〜40代をNGにしている会社はほとんどありません。実は企業側はフラットなんです。
その一方で、求職者サイドは、少し固定観念に縛られている傾向が大きい。求職側のマインドセットが転職の成功に大きく関係してくるのです。特に大手企業1社しか経験していない人はベンチャー企業などへの転職に目が向かず、転職に踏み切れない人が多くなってしまいます。Webなどの新興市場ではなく、現状の会社規模と同等の市場への転職を検討してしまう人が多い現状にあるんです。
ーー そのなかでも、40代のハイクラス層で成功を収めている人には、どんな共通点がありますか?
勝田:実は40代で転職を成功させる人には明確な共通点があります。それは「WILL」「CAN」「MUST」をはっきりさせている人です。
CAN:できること、能力、スキル、才能、実績
MUST:やらねばならないこと、求められていること、期待、責任
勝田:「WILL」「CAN」「MUST」に分けて考えた際に、「CAN」をベースに転職を始めてしまう人は成功確率が低くなってしまいます。確かに企業が求める「CAN」と求職者の「CAN」がマッチすることで、転職成功の可能性が高まるように思えます。
しかし、「CAN」が「WILL」と結びついていない人は、最終的にうまくいかないことが多い。
例えば、経理の仕事を例にとってみましょう。経理の仕事をしている人が、別の会社に転職しても、「CAN」と「CAN」はマッチしていますが、「WILL」があっていないため、業務内容が変わらず、社名や年収だけが変わり、転職をまた繰り返してしまうことがあります。
「CAN」だけでなく、「自分は何がやりたいのか」「どんな人生を送りたいのか」などの「WILL」を明確にしておくことで、転職後にその企業にしっかりと定着できるようになるのです。
また、それに加えて「MUST」の視点が重要です。「MUST」は会社から期待されていることです。培ってきたスキルや経験(CAN)をベースに企業からの期待に応え、貢献できるかが重要になってきます。
「WILL」と「CAN」を明確にし、その上で「MUST」が重なる企業を探すことが大切です。
ーー 逆に失敗してしまう人にはどのような特徴がありますか?
勝田:先ほどの裏返しでキャリアビジョン(WILL)がない人は特に、転職が厳しい現状があります。自分の意思を明確にし、どのような貢献ができるのか。「WILL」をはっきりさせ「MUST」を照らし合わせられないと転職に失敗してしまいます。
例えば先ほど例示した経理では、「経理×DXで経理の非効率をなくす」ことをWILLとして掲げていれば、それにあった「MUST」がある企業を探しやすくなります。
スキルをかけ合わせ、自分なりの「WILL」を導き出すことが転職のポイントと言えます。
ーー 40代からでも転職を成功させるポイントは何でしょうか。
勝田:まずは自分の強み(CAN)を棚卸しし、「WILL」と「MUST」を考えていくことが重要です。今までの経験を言語化し、どんなスキルや知識があるのかを明確にすることで、「WILL」や「MUST」との紐付けが容易になります。
転職先探しでは、転職サイトよりも転職エージェントを活用することが重要です。転職サイトでは、40代の希望者にあった案件が紹介されているケースは少なくなっています。転職エージェントに登録し、「CAN」「MUST」「WILL」をしっかり伝えることで、成功確率は高くなるでしょう。
また、現職でのポジションを捨て、プレイングマネージャーを担うマインドセットが重要です。「部長」や「課長」などの肩書は、現職の社内でしか通用しません。管理職としてのマネジメント経験があることは強みにはなりますが、それだけでは転職は難しくなってしまいます。
転職先企業では、所属するメンバーの年齢構成やレベル感や価値感などが異なるため、「肩書」のみでメンバーをマネジメントしていくことは難しいです。
入社後は、自ら手を動かし、実績を積んだ上で、ポジションを獲得するというマインドセットも重要になります。
さらに重要なのがアンラーンできることです。新しい環境で活躍するには、今までの経験や実績を強みとするだけでなく、転職先での新しい業務やカルチャーなどをゼロベースで吸収し、変化を楽しみながら学習し続けられるかどうかが鍵を握っています。
ーー しかし、簡単に転職を成功させられる人ばかりではありません。「キャリアアップ」という視点で見た際に、転職以外の方法はあるのでしょうか?
勝田:ある程度の待遇のダウンを受け入れる覚悟がないと、年収を維持しながら正社員として転職する選択肢は現実的ではありません。人生100年時代になり、人の寿命は伸びていますが、企業の寿命は短くなっています。ミドルシニア層にとって別の会社に正社員として転職する選択肢は現実的ではなくなっているんです。
会社の寿命が短くなると、同じ会社で定年まで勤めることが難しくなり、必然的に社外での活躍機会を見つけることになります。しかし、ミドルシニアが今までと同程度の条件で正社員転職をしようとすると、CxOなどの幹部経験者以外は、実際には狭き門となっているのが現実です。
また、優秀な人は独立して起業することもありますが、ビジョンが明確で、バイタリティがある人に限定されますので、レアケースと言って良いと思います。
そこで第3の選択肢として、「複業(副業)」をきかっけとした「キャリア自律」がおすすめです。自分の経験を生かしながら、企業が求めるカルチャーに溶け込む努力をするなど、企業が求める「MUST」の部分を実行できる人は、可能性を秘めています。
ここでいう「複業(副業)」とは、本業を続けながら、今までの経験や強み、志向を活かした複業(副業)などの社外で活躍する機会をみつける、ということです。ライフシフトラボでは、複業を「キャリア自律」の手段と捉えております。通常は、小遣い稼ぎの「副業」と書きますが、時間を切り売りする単発の副業を重ねてもキャリア自律には繋がりません。
ライフシフトラボは、今後30年のセカンドキャリアの自律に繋がる「複業」を伴走支援しています。業態はさまざまですが、自らの経験や強み(=CAN)や志向(=WILL)に基づいた複業のため、本業との相乗効果も期待できます。
複業で改めて本業の良さや価値について見直した方も多いですし、結果として、複業先に正社員として転職するケースも増えています。複業をきっかけとした転職は、双方の仕事のレベルや価値観などが既に蓄積されていますので、転職リスクを減らせるといったメリットもあります。
今の会社を辞めずに次のキャリアを見据えて活躍機会を見出していくことがミドルシニア層にとって希望であると思います。転職のアプローチよりも、新しいチャレンジをつくるキャリアシフトの考え方が重要です。
中小企業の営業企画やマーケティングなどを支援したり、関心がある分野で趣味の延長線上で新しくチャレンジすることもおすすめです。
ーー キャリア自律の実現では、どのような例に挙げられるのでしょうか。
勝田:中小企業の営業企画やマーケティングなどを支援したり、関心がある分野で趣味の延長線上で新しくチャレンジすることもおすすめです。
例えば、デザイン思考のキャリアサービスの領域で活躍されている方がいます。働きがいを求めて複業を始めたいが、自分に何ができるのかがわからず、もともと興味があったデザイン思考を専門学校で学んだものの、仕事には活かせていませんでした。
そこで、自身もキャリアに悩みながら行動してきた経験から、ライフシフトラボのプログラム期間中にデザイン思考を用いた独自のキャリア開発メソッドを考案したんです。今はキャリアデザインワークショップ講師として、50代の会社員およびキャリアコンサルタント向けにキャリアデザイン構築を支援する複業を始めています。